塩は味付けだけの道具ではない。溶けて拡散し、いったん水分を引き出したあとで、その水を塩ごと筋肉の外側数ミリへ連れ戻す—タイミングを誤ると、その水分が表面に残ったまま蒸されて、焼き色がつかなくなる。
正しいタイミングは厚みとスケジュール次第だ。薄切りの一枚肉と骨付きの塊肉は、同じ塩でもまったく別の問題として扱う必要がある。
塩を振った最初の数分に起きること
表面の塩は浸透圧で水分を引き出す。その水が塩を溶かして薄い塩水の膜を作り、時間が経つとその一部が肉の中に戻り、表面のすぐ下まで味が入る。
水分が残ったままの肉にたっぷり塩を振ってすぐ焼くと、自分で作った塩水の中で蒸し焼きになりがちだ。もう一度キッチンペーパーで水気を拭き取るか、表面が乾く時間を取れるよう早めに塩を振っておこう。
塩締め(ドライブライン)と塩水漬け(ウェットブライン)
塩締めは肉の表面に塩(時に砂糖やスパイスも)をまぶし、冷蔵庫でラップをせずか軽くかけて置く方法だ。味が入ると同時に表面が乾き、焼いたときの色づきが良くなる。
塩水漬けは肉を塩水に浸す方法で、パサつきやすい鶏むね肉や一部の豚肉には有効だが、牛のステーキに使いすぎると水っぽくなり、牛肉本来の味がぼやけることがある。
厚みで変わるタイミング
薄切り肉は焼く直前に塩を振るか、振ったあとごく短い時間だけ置いて水分の膜が溜まりすぎないようにしたい。厚みのある塊肉やステーキは、冷蔵庫のスペースが許すなら数時間、理想は前日からの塩締めが効果的だ。
粗塩と精製塩は同じ体積でも塩分量が違うので、正確さが必要なときは重さで量ろう。どの部位でも、表面が乾いていてこそ火にかけたときにしっかり焼き色がつく。
砂糖入りのタレと燻製系の下味
砂糖は塩より早く焦げるため、強い直火の上ではすぐに黒く焦げつく。砂糖を含んだタレは火から遠い場所で使うか、焼きの終盤に塗るようにしよう。
亜硝酸塩を使う本格的な燻製・塩漬けは、夕食のための下味とはまったく別の技術だ。一晩の塩締めを、ハムやソーセージ作りの衛生ルールと混同してはいけない。
塩の使い方を部位ごとの戦略へつなげる
豚バラのように脂の多い部位は多少強めの下味にも耐えるが、脂の少ない鶏むね肉は塩だけでは足りない—塩水漬け、脂を含んだタレ、ソースなど別の潤い戦略が必要になる。
まず調理法(焼く・煮るなど)を決め、それから厚みを見て塩のタイミングを決めよう。誰か一人の決めつけルールより、目の前の肉を見て判断するほうが確実だ。
要点
- 塩はまず水分を引き出し、そのあとで味を中へ運び込む。
- 塩締めは味と焼き色を、塩水漬けは脂の少ない肉の潤いを助ける。
- 厚みと焼き方の計画に合わせて塩のタイミングを変える。
- 砂糖の多いタレは強い直火で焦げやすい。
よくある質問
ステーキは前の晩から塩をしておくべき?
厚みのある肉で冷蔵庫にスペースがあるなら、前の晩から塩締めして焼く直前にもう一度水気を拭き取ると効果的だ。薄切り肉は焼く直前で十分。
塩をすると肉が硬くなる?
正しい塩締めは肉を硬くしない。硬くなる主な原因は焼きすぎだ。ただし塩水漬けを極端に長くすると、食感がスポンジのようになることがある。
塩締めした塩は洗い流していい?
基本的には洗わず、キッチンペーパーで拭き取るほうがいい。水で洗うと表面が再び濡れ、うま味をシンクに流してしまうことになる。